2012年05月20日

パトリシア・A・マキリップ『アトリックス・ウルフの呪文書』

アトリックス・ウルフの呪文書 (創元推理文庫) [文庫]
パトリシア・A・マキリップ (著), 原島 文世 (翻訳)
http://www.amazon.co.jp/dp/4488520189/


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確かに一風変わってはいるけれど、これは灰かぶりのお話だ。
ふふふ。
そしてこの作品もまたマキリップの他の多くの作品と
同様、異類婚姻譚の一面をもっている。

マキリップの手にかかれば、灰かぶりもただのお話しでは
終わらないことは一読すれば明らか。

繊細さと煌きに彩られた華麗な言葉の連なり。
大胆な着想。
マキリップによって描かれる、ペルシールをはじめとした
世界に満ちる魔法のかおり。
いつもながらあっという間にマキリップの世界に引き込まれ、
堪能したよ。

ヒロインのサローは理不尽にも言葉を奪われている。
そして本来の姿も能力も奪われている。
すべては物語のはじまりで語られる、
アトリックス・ウルフがとったとある行動のせいなのだが……。

サローが一所懸命に仕事をこなすところに好感を抱いたよ。
読み進めるあいだずっと「早く言葉と本来の姿を取り戻してほしい」と
心のなかでサローのことを応援していた。
サローってば可愛いのう。

アトリックス・ウルフが魔法で千変万化するさまは
スターベアラーでモルゴンが同じく姿を変えたのと同じで、
水が流れるように次々と姿を変える。

マキリップが考える魔法というものを、映像として
心のなかで再現してみるとき、
その美しさに息を呑まずにはいられない。

ただ美しいだけではない。
マキリップの作品には情感が溢れている。
読んでいて、楽しい。
だから、ずっとマキリップの作品を僕は読み続けている。
読み返し続けている。





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2012年01月31日

『茨文字の魔法』パトリシア・A・マキリップ

『茨文字の魔法』
パトリシア・A・マキリップ 著
原島文世 訳


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パトリシア・A・マキリップの作品世界は、目くるめく言の葉の世界だ。
流麗な言葉と煌めくような表現の数々。
「そこから、こう来るのか!?」とはっとさせられる言葉の数々が
節を作り、章を形づくる。
それらの言葉が次々と織り成され、最後は見事に一巻の「言葉の絵巻物」が
できあがり、読者はマキリップの綴る世界にひきこまれてゆくのだ。

ぼくがはじめてマキリップ作品を読んだのは『妖女サイベルの呼び声』だったように思う。
それからは書店に走り『オドの魔法学校』を手に入れたり、
当時絶版になっていた『星を帯びし者』をはじめとするイルスの竪琴三部作や
『ムーン・フラッシュ』をオークションで手に入れるのに躍起になった。
ぼくはマキリップの世界に魅了された。

詩情豊かな言葉の数々に魅了されてのことだけではない。
緻密な構成の妙。
作品の隅々まで細やかな心遣いがなされているのが、読んでいて心地よい。
「きれいな単語を連ねただけの凡庸な作品」は世に多いが
マキリップがあらわす作品群は、けしてそうではないのだ。

出版社のWebSiteに掲載されているあらすじを少しでも読んでみてほしい。
それだけで、わくわくした気持ちが抑えられなくなると思うよ。
実際に彼女の手になる作品のひとつを一読してもらえれば、
ぼくらをあっという間にマキリップの世界に引き込んでしまう魔法が
その行間に潜んでいるのに気づいてもらえると思う。

マキリップ作品で何を勧めるかと問われたら、どうしよう。
それこそ全部おすすめしたいけれど、今日はこの作品『茨文字の魔法』をすすめたいな。

歳若い女王の突然の即位。
それに合わせたかのように、レイン十二邦にもたらされた茨めいた謎の文字で綴られた古書。
なにゆえにかそれを読み解いてしまう少女・ネペンテス。
(いや、職業が翻訳者だからっていうのもあるか。)
彼女だけに茨文字の書が語りかけてくるのは、なぜなのか……。
戦乱の気配せまるレイン十二邦。
古代の王は眠りより目覚めて警告を発する。
そして、茨の書の中で語られる、超古代の覇王と、ともにある仮面の魔法使いの物語……。
物語は幾つもの対比が重層的に折り重なり、複雑な様相を呈してゆく。

どうでしょう、どきどきしてきませんか。
うーん、ぼくの書くあらすじ紹介は褒められたものではないから、
出版社のページで紹介文を一読してもらったほうがよいかもしれないね。


茨文字の魔法
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488520090
(東京創元社のWebSite)


茨文字の魔法 (創元推理文庫) [文庫]
http://www.amazon.co.jp/dp/448852009X
(Amazon.co.jp)




ファンタジーをあまり読まない人にファンタジー作品を勧めると、
「延々と続編が続く重厚長大なものとか、ステレオタイプなものばかりなんだろう?」
と言われることも多いけれど、そうしたものばかりがファンタジーではないんだよ。

マキリップを未読な人がいたとしたら、ぜひ一冊手にとってほしい。
ファンタジー好きであっても、そうでなくてもかまわない。
マキリップを勧めたい、そう思いますよ。






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2011年07月09日

星を帯びし者 パトリシア・A・マキリップ

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ふっふっふ。
待っていましたよ。この時を。
パトリシア・A・マキリップ初期のファンタジー『イルスの竪琴』三部作が
再販されました。
版元が早川書房から東京創元社に移りました。

三冊揃っての再販までの道のりは、それにしても長かった。
手元にある早川版の奥付を見ると初版が昭和57年の発行ですから。
もう29年も前のことになります。

長らく再販が無かった本ですから喜びもひとしお。
これで新しいマキリップ読者が増えてくれたら嬉しいな。

僕がマキリップを知り、本を集めだしたころには中古市場でも『イルスの竪琴』シリーズは
手に入りにくい状況でした。
ヤフオクで『イルス〜』の出品があればとにかく入札をする……という
手段でなんとか手に入れ、むさぼるように読んだのです。
その結果、僕の手元には『イルス〜』三部作のうち『星を帯びし者』だけが
なぜか二冊も揃うことになってしまいましたが、まぁこれはご愛嬌ということで。
妻も旧版の『イルス〜』三部作を持っていましたので我が家には
『星を帯びし者』だけで三冊も揃っていたことになります。

そして今回の創元推理文庫から新たに出版された『星を帯びし者』を
加えましたから、我が家ではこれで四冊目……(笑)。

脇さんの細かな手直しにより、旧版では判りにくかった訳が
新版では読みやすくなっていますよ。

新版での訳者あとがきでは、脇さんが『イルス〜』の世界観を
随分と突っ込んで解説していたのが印象的。
そこまで解説しなくてもファンタジーの世界観は読者が
次第に理解していけば良いのではないかとわたくしは思いましたが。
でも、それも良いのかもしれません。
マキリップの新しい読者に、『イルス〜』の世界に親しんでもらう
ための手としては。
それに、『イルス〜』三部作に対する脇さんの思い入れの強さのあらわれ、とも
受け取れますし。

などと、つらつら考えつつ、わたくしとりあえず旧版を読み返しているところです。
新版があるのに……と笑われるかもしれませんけれど。
えへ。
(古書って良い香りがしますよね。この香り、好き。)


謎が謎を呼ぶ三部作。
読み返して思うのは、相変わらずモルゴンが一刻者よのう、というところ。
モルゴンがヴェスタに姿を変えるシーンや、アストリンのもとで
モルゴンが赤と紫のガラスの破片をつなぎ合わせるシーンなど、
詩的で色彩にあふれるマキリップの世界がこの昔からずっと描かれているなぁと
再確認したことでしょうか。

ところでわたくし、『星を帯びし者』で一番好きなキャラクターはアウムのペブンです!
ええ、ええ。
誰がなんと言おうとも。
ペブンは、ある意味かわゆすぎる……。
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おっと。
手元の旧版・第三刷 P.313,L.8
「その調べは川のささやきに合うように次第に知らげられていった。」
は、
(誤)知らげ
(正)和らげ
の誤りだろうとは思っていましたが、やはりそのとおりだった模様。
ゲラチェックで見落とされたままだったのかな。

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