2012年08月15日

『うちの一階には鬼がいる!』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

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『うちの一階には鬼がいる!』
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
原島文世 訳



日本語版単行本版の大きさに怯み、
表紙絵とタイトルから想像して「なにか怖い話なのか」と
思ってなかなか手をだせずにいたのだけれど、
このたび文庫化されたというので
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『うちの一階には鬼がいる!』を
読んでみました。
それにしても、ああ、最近
「ハードカバーの本が重すぎて読めない」というパターンが
多すぎるような……?
本の重さに負けて読むのを躊躇ってしまうという事例が多いのは、
読書に割ける時間が通勤電車のなかに限られている昨今の
私的事情がそうさせているのでしょう。
この『うちの一階には鬼がいる!』も、はじめは妻の書架で
ハードカバーの単行本版を見つけたのに、ハードカバーという点だけで
読むのをずっと躊躇っていたからねえ。)

一読しました。

あら、まあ。
そんなに怖い話ではなかったのね。
そりゃ児童書だもの、そう怖くもないのか……。
ジョーンズ作品にしては、ドライな視点はあまり感じられず
お話はすいすいと素直に進む。初期作品だからかしらん。
ハートウォーミングな物語でした。

鬼扱いされているけれど、義父のジャックはそう悪い人でもないんじゃないの?
再婚相手が連れている三人の子と自分の子たち二人を
あわせて五人の子持ちになったんですよ。
いろいろ欠点はあるけれど、かなり頑張っているお父さんなんじゃないかしら。

『うちの一階には鬼がいる!』(原題:The Ogre Downstairs)が
発表されたのがいまから約四十年前という時代背景を考慮に入れても
「鬼」と評されるこの作品の義父は、相当頑張っているほうだと思う。

しかし、そういう視点でこの作品を読んでいるってことは
大人の視点であって、小さい人の視点じゃないみたいよ、と妻に笑われた。
そうか、そうなのか。
いつの間にか「コドモのココロ」を失っていたのか僕はッ。
うえーん、うえーん。

おっと。
この作品の主題は、はじめ対立していたコドモたちが
仲良くなっていく過程にあるのだと思いますが、
ジャックさんが買ってきてくれた魔法の実験道具が
要所要所でお話しの鍵になっています。
たとえオトナ視点の僕であっても、「わーお!」と
楽しめる魔法の仕掛け。
(ねえ、ここで楽しめるってことは、僕の視点がいつでも
「オトナ視点」ってわけじゃあなくて、たまには
「コドモ視点」や「コドモ思考」を取り戻して
純粋に物語を楽しめているってことなんじゃないのかな。
えぐえぐ。)


うちの一階には鬼がいる! 東京創元社
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488572143
Amazon.co.jp
http://www.amazon.co.jp/dp/4488572146/



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2012年03月25日

『バビロンまでは何マイル』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

『バビロンまでは何マイル』
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ :著
原島文世 :訳



妻の書架に、創元ブックランドから出ていたこの本の
単行本(ハードカバー)上下巻が並んでいた。
うつくしい表紙絵。
しかも著者はあのダイアナ・ウィン・ジョーンズ!
いいなぁ、いいなぁ、読みたいなぁと思い、妻からは
「読んでもいいよ」と借りる許可をもらってはいたのだけれど
大型のハードカバー本を通勤時に持ち歩いて読む自信が持てないままでいたのでした。
しかし、出たのですよ文庫版が。
文庫版の発売日が2011/4/21と記録にはあります。
単行本の発売日が2006/3/22ですから五年経ってようやくの文庫化。

文庫版が出た昨年、発売日のすぐあとにわくわくしながら一読。
「うわー、やっぱりジョーンズ、すげえ!」と感嘆。
文庫版の表紙絵はぼくが心惹かれたあのうつくしい単行本の表紙絵とは異なり
ジョーンズ作品の単行本表紙絵では常連の佐竹さん。
(佐竹さんの表紙絵、『ダークホルムの闇の君』や
『グリフィンの年』の単行本絵では味わい深くて好きだけれど
『バビロンまでは何マイル』に限って言えば、はじめに見た
あのうつくしい表紙絵のほうがこの世界観に合っているように
思えてしまう。きらきらした印象をこの作品から受けるから、
あのうつくしい表紙絵のほうを好もしいとぼくは思うのかしら。
いえ、佐竹さんの絵も素敵なのは変わらないはずですが、
はじめに見た単行本表紙絵のほうから、きらびやかで鮮烈な印象を
受けたせいですかねぇ。)
初めて読んでから少し時間が経過したいま、ほどよくその内容を忘れているのもあって
再読をしています。わくわく。楽しいなあ。


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これは文庫版。


お話のなかで、世界のあちらこちらに広がった謎や小話の数々が
ぐるっと大きな輪を描いて回りだし、ページを繰って読み進める
ぼくの心もその輪のスピードに遅れまいと自然と弾みだしてきました。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの紡ぐお話が勢いよく走り出したら
その楽しさにご用心。ページを繰る手が止まりませんから。
最後まで一気に読み進めてしまうこと請け合います。
『バビロンまで何マイル』は、さながらラストまで
止まらないジェット・コースターのよう。

マリーを追いかけてルパートがブリストルじゅうを
駆け巡るのがさながらブリストル観光ツアーめいていておかしい。

あれ? え? いつの間に!?……と、ルパートの心が変化していくのを
追いかけるのがまた読んでいて楽しい!
くう〜っ、この楽しくってウキウキする気持ちを、みんなに分けてあげたい。
フンガー!

脇をかためる登場人物たちも、それぞれが強烈過ぎる個性の持ち主ぞろい。
さすがDWJ。
ジンカの「え、え、いいの?それで!?」と思わずにはいられない奔放さや
クワック夫妻の格好良さとか、もう、随所に小技が効いている。
勢いある本筋とは別に、思わずにやりとせずにはいられないエピソードが盛りだくさん。
ご本人も楽しみながら書いたのではないかしらん。
キースが魔法集団のそばで指揮棒を振り回すかのようにしてふざけているのが
ファンタジアのミッキーを連想してしまい、おかしい。ぷふーっ。
ニックが振り返っちゃダメな気がして振り返らずにきた場面は、
「あれ? 黄泉比良坂じゃなくって何だっけ?」とはじめ思ったのだけれど
きっとロトの妻とか、ほかの話のことよね。類似したお話は世界各地にあるものね。


それにしても、読み進めるうちにだんだんとマリーが
たまらなく可愛らしく思えてくるから不思議だ。
話の筋の奇抜さや組み合わせの面白さ、着想の非凡さだけではないのよ。
ジョーンズさんは心理描写も巧みなのですよ。
作品のそれぞれが異なる雰囲気を持っているのに、そのどれもが一級品。
まぁ、一番は「面白い!」って素直な感想を抱けるのが
ジョーンズ作品を人に勧めたくなる点かな。



ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんが亡くなり、明日の3月26日で一年となります。
震災があった直後のことで、まだ日本中が動揺している最中のことでした。
ぼく自身、震災後のこの日本で明日どうなるかもわからない不安を強く感じていました。
いま振り返れば、ジョーンズさんの訃報に接したあと静かに哀悼の意を
表する間もなかったように思えてなりません。



official website of Diana Wynne Jones
http://www.leemac.freeserve.co.uk/
ブリストル大学内、DWJ名誉学位2006年授与のページ
http://www.bristol.ac.uk/pace/graduation/honorary-degrees/hondeg06/jones.html
telegraph.co.uk内、DWJの訃報を伝えるページ
http://www.telegraph.co.uk/news/obituaries/8414429/Diana-Wynne-Jones.html
Wikipedia(En) Diana Wynne Jones
http://en.wikipedia.org/wiki/Diana_Wynne_Jones
「ハウル」原作者 ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんに聞く―前編
http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/ghibli/cnt_interview_diana.htm





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2011年12月31日

『魔法使いになる14の方法』

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『魔法使いになる14の方法』
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、
フィリップ・プルマン 他:著
ピーター・ヘイニング:編
大友香奈子:訳


ぼくにとって大友香子さんが訳すマキリップ作品は、
井辻先生たちの訳に比べると(ぼくにとっては)
少し「硬いかな?」と感じていた。

それがどうだろう。
作品を変えると見事にぴたりとはまった。


ネズビットに始まり、ジョーンズに終わる……。
ちょっぴりドキドキ・ハラハラの読後感を与えてくれる
短編が14編。


ネズビットと言えば、『砂の妖精』しか知らなかった浅学なわたくし。
短編も面白いんだね。
「ドゥ・ララ教授」の特異な風貌とキャラクターが、登場場面の少なさにも
関わらず、読後も忘れられない存在となっている。
ただ、この作品で注目すべき重要な点は
魔法が解除されてしまったその理由とちいさなヒロインの気持ちの変化、
ヒロインを見守る校長先生の暖かなまなざしといったものだろう。
……と、ここまで書いたところで「いやいや、やはりドゥ・ララ教授の
不気味さも重要」と思い直してしまった。

途中、小首を傾げてしまう「これって魔法のお話?」という
作品も幾つかあったものの概ね楽しく読むことができた。
13の短編を読み終えた最後にご褒美がありました。
最後の14話目。
著者は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。

しかも内容はぼくが未読の(すみません)クレストマンシーの短編では
ありませんか。

一読してしばしクレストマンシー世界の余韻に浸るわたくし。
ふう。
いままで未読ですみませんでした。
なんて楽しいんだろう、クレストマンシーの世界は。
やっぱり大好きジョーンズ。
おお、DWJ。
大好きですよ、DWJ。
もうこの世におられないなんて信じられない……。


いままで知らなかった作家に出会えることもできたし、
さまざまな不思議な世界を知りたいと願うむきには
勧めてもよい一冊だと思えた『魔法使いになる14の方法』。
ただし、作品をはじめて読むときには
各作品がはじまる前に編者のピーター・へイニングが
若干のあらすじやコメントを記している点に注意したほうがよいかも。
なぜって一部「それってネタばれでしょ?」という点まで
記しているものも幾つかあったので「知らない作品を
はじめて読むときのわくわく感」を台無しにされたくない人もいると
思うので。
ぼくの場合は途中から片目を閉じて
ピーター・へイニングの記したコメントを見ないようにしながら
各作品を読みましたよ。ふう!

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