
ゼロ。
弟が学生時代に親戚宅で一目ぼれしてきたということで
貰ってきた猫だった。

ぼくが上京している間に実家に住み着いていたので
帰省してみたら我が物顔で実家をのし歩いているゼロに
なにやらむかっ腹を立てたのを覚えている。
(ゼロ、ごめんな。)
ああ、こう書くとぼくってダメなやつだなー、すまん、ゼロ。
ゼロにしてみたら理不尽な話だよな? な?



その後、実家に帰省するたびにゼロ相手に喧嘩したり
可愛がったり、近づいてこられたりで不思議な距離感を
保ち続けていたがゼロが大病を患うより少し前の
四、五年ほど前からはわりとよい関係を築けていたように思う。
ゼロの喉をぐりぐりくすぐったり、耳垢掃除をしても
あいつ怒らないようになっていたからなあ。

いいやつだった。
そのゼロもこの四月二十一日にこの世を去ってしまった。
父がうたた寝をする前までは確かにあいつは起きて生きていたという……。
衝撃を受けて落ち込んでいるのは実家にいる家族みながそうだと思うのだが、
父の落ち込みようが一番酷いようだった。
すでに齢は二十の坂を越え、
「もうネコマタになってもいいんじゃねーの?」
と思っていたのだけれど、弟によれば正確には
十九歳と六ヶ月ゼロは生きたのだという。
それでも長生きしたよな、お前さん。

この春は、この四月は、
大切に思っていた対象が去って行ってしまう月だった。
ゼロ、お前もまた然り。

ぼくはお前を悼む。